ホウ・シャオシェン『風櫃(フンクイ)の少年』映画のように見える日常

ホウ・シャオシェン監督による1983年作『風櫃(フンクイ)の少年』について。

日常を映画のように見る少年たち

主人公である少年が大人になる直前の悪友や片想いの相手、親の家族像をなぞることなどに対する葛藤についての物語であり、モラトリアム映画。それと同時に、日常、そして自分の過去の記憶や将来の願望、不安があたかも映画のように見える時期についての映画。

全体的に遠近感が消されたような平面的な撮り方になっており、音も別録音のようなべったりした距離感のないものになっている。さらに、平面な画面をフレームで区切ったショットが頻繁に出てくる。それによって、この映画に映っているものが主人公達から見ても映画であるような構造となっている。主人公達には自身の日常が映画のように見えている。

それを表すように現れるのが、騙された主人公達が柱によってフレームとして区切られた街の景色を「カラーでワイドなスクリーン」として眺めるシーンであり、そこに入っていくまでの暗闇はあたかも映画館のスクリーンに入っていくように見える。さらに、主人公が区切られたフレームを通して何かを眺めるショットが何度も繰り返される。

主人公が映画を見ながらもその先に映画ではなく自身の思い出を見ているシーンがあるように、主人公はその映画としての日常を見ると同時に、未来や過去をも同時に見ている。

主人公が思いを寄せるシャオシンもよく窓枠などのフレーム越しに何かを眺めている。しかし、そのシャオシンの眺めている景色は主人公と違いこの映画には映されない。しかし、主人公にだけ映画や日常にあるフレームを通して見えていたものがあるように、シャオシンには彼女にしか見えないものが見えている。そして、二人が見ていたものは全く違うものだっただろうことが最後の映画のシーンで示される。

そして、シャオシンと離れた。しかし、奥行きのない画面であるがゆえに、主人公達が市場と共に遠景になったようにも、市場が主人公達のいる前景に出てきたようにも見える。遠景として見れば、主人公はその友達と共に映画の登場人物となることをやめ、人が溢れる市場のその一員、映画の背景として溶け込んでいったように見える。それと同時に、前景として見れば、自分達のことしか見えていなかった主人公達が市場の人たちのような他者をちゃんと見れるようになったようにも見える。そのどちらもが一段階大人に近づいたということであり、その二重性によってこの映画は終わる。

キム・ボラ『はちどり』と併せて

似た終わり方をする映画にキム・ボラ『はちどり』がある。『はちどり』の主人公の年齢はこの映画より一回り低い。そして映画全体を通してピントが浅く、それによってまだ主人公が見えていないものが多くあることが示されている。

そして『はちどり』のラストでは、主人公が振り返るショットの後にその主人公の周りにいた人々にピントが合い、一瞬前景としてくっきり映るようになる。そしてまたピントが外れることでその人々はぼやけて遠景となる。これによって、主人公が映画を通して社会を経験することで、他者を見れるようになったと同時に、まだそれが見えてもいないという状態であることが示される。

感想 / レビュー / その他

画面の平坦さによって、人が密集してるように映る、それによって画面の中にある人達の間に親密さを感じる。また、跳ねる水の後ろで踊ってるシーンのように、その平面さを活かした初めて見るようなショットがある。

映画内映画のシーンは色々あるが、この映画内に現れるスクリーンの距離感のない感覚、前に投げ出された足と映画を見ている観客が同じ距離感にあるショットは今まで見たことがないようなものだった。

友人達とのシーンがどれも仲の良さや滑稽さ、カラッとした陽性のエネルギーみたいなものに溢れていてずっと多幸感があった。最初の喧嘩シーン、特に仲間の助太刀に棒を持ってきたけど相手が倒れていて仲間は既に逃げ走り始めていて、それを見て助太刀として走ってきた勢いのままUターンして逃げるところ。泥酔のシーンなど、最高のシーンを挙げればきりがない。

あと、あの挟まれてペタった虫の周りを線で何重にも囲ってくやつ、全く同じことした記憶があってぞわっとした。

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同じ監督の作品であり、主人公の主観が映画を見る観客のものと一致していること、主人公の思春期が終わっていく話であるという点で共通する映画。ホウ・シャオシェンにとっても、自身の映画の主人公と同じように全てが映画のように見えていたのかもしれない。

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『風櫃(フンクイ)の少年』 『童年往事 / 時の流れ』『冬冬の夏休み』に通底する「何かを見る=映画を見る」となる主観に関してはこちらでまとめています。

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https://seattlescreenscene.com/2015/03/20/the-boys-from-fengkuei-hou-hsiao-hsien-1983/