クシシュトフ・キェシロフスキ『ある夜警の視点から』全体主義の構造


クシシュトフ・キェシロフスキ監督による1977年作『ある夜警の視点から』について。

全体主義を強化する市民

国の制度によるインセンティブによって、国が正しいとするルールを内在化した男を撮ったドキュメンタリー短編。

男は夜警であり、国から与えられた役割、国が決めたルールという後ろ盾によって自警的に同じ市民を裁いていく。

夜警という肩書きでいる時と、そうでない普段の時の両方が映される。夜警でいる時は制度の後ろ盾によって好きに人を裁けるが、子供がインコ解き放ったり犬が全く従わなかったり、普段の生活においては人を従わせる能力が全くない様が映される。

その普段の自分から来るコンプレックスは他者に向いており、それを表すように、普段の男が若者や釣り人に対して、裁きたい欲求を秘めたように影から見つめる視線のショットが入る。彼が"夜"警と明示されている理由はそこから来るように思える。

男を認めるのは権力のみで、それは彼が権力に忠実であることのみによる。そして、その権力が名誉という形のインセンティブを与えることでその男の権力への忠実さは強化される。同時に、夜警である自分と普段の自分の間の隔たりは大きくなり、その権力によるインセンティブへの依存度が上がっていくというループに陥っている。そして、その男のような人によって権力がより強化されていく。

全体主義において、権力者がどのようにして市民を従わせているか、それは同じ市民が自発的に国にとって都合の悪い市民を裁くようにすることによってである。その構造が撮られた映画となっている。そして、最後は希望のように男が時代遅れの人となっていることが撮られている。

感想 / レビュー / その他

解説として、主人公を全体主義を作る人物として批判的に撮ったことが批判されたという話があった。確かに、映画において権力側である監督が被写体に対して暴力を振るった作品になっているように思う。

https://www.filmfestival.gr/en/movie-tiff/movie/3636