オタール・イオセリアーニ『トスカーナの小さな修道院』


オタール・イオセリアーニ(Otar Iosseliani)監督による1988年作『トスカーナの小さな修道院(Un petit monastère en Toscane)』について。

トスカーナの外れに修道院があり、5人の修道士がおそらく古くから伝承されてきただろう宗教儀式を毎日繰り返し、宗教画や書物の修復と維持を行っている。教会や修道院は街から孤立した場所にあり、教会の大きさに対して修道士の数、そこに通う人々の数は少なく見える。

修道院と同列に、狩猟、農耕、祭りなどトスカーナに住む人々の営みが撮られている。静かな雰囲気で統一されているために、狩猟に向かう背中や銃声、豚の解体が暴力的に映る。淡々と映される日常風景の中に裂け目のようなものが見える瞬間がある。市井の人々だけでなく、上流階級の人々も映される。彼らは修道士のように隔てられた生活を送っている。修道士達は市井の人々と関わり合うが、彼らはそうでない。

『唯一、ゲオルギア』でジョージアにおいてワインは宗教的な意味を持ち、その製法もまた儀式的な意味を帯びていること、ポリフォニーは地中海沿岸地域の発祥であり、同じく宗教的な意味を持っていることが語られたが、劇中に映るトスカーナの生活はジョージアに近いものとなっている。山岳地帯にあることもジョージアと共通し、その地理ゆえにこのような伝統的な生活が保たれているようにも見える。トスカーナに、ソ連に占領されていなかった if の世界でのジョージアを見ているように感じる。

ワイン作りにはプラスチックのパイプが用いられており、人々もまた現代的な生活へと移行しつつある。この映画にスナップショットのように収められた営みは終わりつつあるような雰囲気を纏っている。最後に、この映画が第一部であり、20年後全てが順調なら同じ人物、同じ場所で第二部を撮る予定であることが語られる。そして、結局第二部は撮られずに終わっている。