ピエル・パオロ・パゾリーニ『奇跡の丘』は何についての映画だったのか

ピエル・パオロ・パゾリーニ監督による1964年作『奇跡の丘』について。

何についての映画なのか

キリストの誕生から復活までをネオレアリズモ、ドキュメンタリー的な方法で撮った映画。セリフは聖マタイのゴスペルからそのまま取ってきているらしく、それが原題 「The Gospel According to St. Matthew(聖マタイによって語られたゴスペル)」にそのまま反映されている。それらのそっけなく感じられる背景に加えて、映像がドキュメンタリー的で淡白なこともあり、キリストによる一連の出来事に対して距離をおいた上で、一つの事象として観測的・客観的に撮っているように思われる。そうだとすれば、この主題と方法を選んだ意図が重要なように感じられる。

物語としては神への信仰の失われたユダヤ教による専制社会に対し、キリストが神の使いとしてその社会を崩壊させるというものとなっている。裏切りのモチーフとして金銭があり、問題となるのはその専制者達がブルジョワとして金銭を独占していることである。それによって、この映画で描かれるユダヤ教社会が、当時の全体主義的な資本主義社会と重ね合わされている、現代の社会の映し鏡のような映画となっているように思える。イエスの言う「目があるのに見えていない、耳があるのに聞こえていない」というセリフは現代の人々に向けた言葉のようにも響く。

この作品のwikipediaには、

He also stated that the film was "a reaction against the conformity of Marxism. The mystery of life and death and of suffering – and particularly of religion ... is something that Marxists do not want to consider. But these are and have always been questions of great importance for human beings."

(この映画は、人類にとって重大な問いであり続けている生や死、苦難の神秘 ー 特に宗教による ー に関して、それをあたかも存在しないかのように無視しようとしてきたマルクス主義者達へのリアクションである)

The Gospel According to St. Matthew (film) - Wikipedia

と書かれており、さらに「無神論者であるあなたがなぜこのような宗教的な映画を撮ったのか」という質問には

If you know that I am an unbeliever, then you know me better than I do myself. I may be an unbeliever, but I am an unbeliever who has a nostalgia for a belief.

(私が無神論者かどうかは私にもわからない。私は無神論者かもしれないが、もしそうなら信仰へのノスタルジアを抱えた無神論者である)

The Gospel According to St. Matthew (film) - Wikipedia

と答えたと書かれている。そのため、マルクス主義者であり無神論者である監督自身を含めた、神話や神秘を失った人々に向けた映画なんだろうと思う。また、

I want to re-mythologize them. I did not want to reconstruct the life of Christ as it really was, I wanted to make the history of Christ plus two thousand years of Christian storytelling about the life of Christ, since it is the two thousands years of Christian history that have mythologized this biography, one that as such would have been virtually insignificant otherwise. My film is the life of Christ after two thousands years of stories on the life of Christ.

(キリストの人生を当時を再現する形で再構成するのではなく、それをもう一度神話化したかった。キリスト、そして2000年に及ぶキリスト教信者たちによるキリストの人生についてのストーリーテリングの歴史についての映画が作りたかった。その2000年の歴史はキリストの生涯を神話化してきた歴史であり、そうでないと取るに足らないものとなっていたはずの歴史であるからだ。この映画は2000年に及ぶキリストの生涯についてのストーリーテリングが行われた後のキリストの人生についてである。)

The Gospel According to St. Matthew (film) - Wikipedia

とも書かれており、この映画はそのような人々に向けて神秘を見せる映画であり、その失われた神秘はそれを神話化してきた歴史、語り継がれてきた歴史の中からしか発見されないということなんだろうと思う。だからこそ、この映画は過去の話としてではなく、この先に現代があるということが感じられるような、現代との連続性を持ったものとして撮られている。この映画の中で起こされる奇跡は、現代へと連続する物語の歴史によって様々なものを反映しながら作り出されてきたものであり、この映画はその物語が語られてきた歴史、その中に潜む神秘についての映画なんだろう。

作品詳細

  • 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ / Pier Paolo Pasolini
  • 作品:奇跡の丘 / IL VANGELO SECONDO MATTEO
  • 製作:1966年 イタリア

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