クシシュトフ・キェシロフスキ『愛に関する短いフィルム』視線の反転


クシシュトフ・キェシロフスキ監督による1988年作『愛に関する短いフィルム』について。

視線の反転

愛に対して理想的な人と現実的な人についての映画。主人公は自分、他者への解像度が低く、他者との関わり方がわからない。それゆえに愛を理想的に信じている。主人公が恋する女性は愛は存在しないと考えていおり、男を次々取り替えている。女性は主人公と出会うことで愛について見直すようになる。一方で、主人公は女性と出会うことで愛に絶望することになる。それぞれの愛に対する考え方が反転する。

主人公が一方的に女性を見つめるところから始まり、二人の視線が交わるようになる。そして、最終的には女性が一方的に主人公を見つめるようになる。覗く側と覗かれる側の逆転がある。その反転に伴い、女性からの主人公の見え方が大きく変わる。最後の覗くシーンは最初のものと真逆のような印象を持つ。

主人公はストーカーであり、一方的に知っているという不均衡な力関係を用いて加害的な行動を行なっている。同じ『デカローグ』の一話である『殺人に関する短いフィルム』と同様に、間違った人についての映画となっている。しかし、『殺人に関する短いフィルム』で弁護士が殺人を行なった主人公を見るようになるのと同様、この映画でも女性はその間違った主人公を見るようになる。制度的には間違っている人を発見していくということがこの二つの作品、そして『デカローグ』の主軸になっているように感じる。

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